形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

フランスパンを作った 文化要因  表象表現 ハート表象 2

 

フランスパンを作った 文化要因  表象表現

サルマタイ  スキタイ  サカ パルティア

  ハート表象 2 「Silphum(シルフューム)」

 

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(66)金製短剣柄、金、トルコ石、1世紀第二四半期;アフガニスタン、ティリヤ・テベ4号墓:黄金のアフガニスタン図録

 

ハート表象とイラン語系遊牧騎馬民族ーサカ族、サルマタイ、パルティアとの関係を妄想する前に、アフガニスタン・ティリア・テベ4号墓から出土した、五つの突起をもつ宝剣に表されたハート表象を見直してみましょう。何故なら、これほど「ハート表象」のルーツを明確に示す例はめづらしいのです。

ウイキョウ属植物の葉がレリーフされ、その茎からつながる実として「ハート形」が表現されています。「ハート形」は明らかに「Silphum」の実であることを示しているのです。ここで「ハート形」の実を持つ「Silphum」の情報を整理してみましょう。

 

1.現在は絶滅種である大ウイキョウ属の「Ferula tingitana」と考えられること。

2.自生地は北アフリカリビア(Libya)のキュレネ(Cyrene)から約200Kmの狭い沿岸地域であること。

3.古代ミノア文明にその表象が見られること。

4.キュレネのコインに見られるように(写真69,70),古代キュレネの重要な貿易品であったこと。

5.咳、喉の痛み、発熱、消化不良などの薬として用いられたこと。

6.「月経を促進する効力」があったこと。

 

 

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(69)「Silphum」がレリーフされたレネ(Cyrene)の古代銀貨;BC6~5世紀 wikipedia

 

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(70)「Silphum」の実がレリーフされたキュレネ(Cyrene) 古代銀貨;BC6~5世紀 wikipedia

 

私は、「ハート形表象」を考える上で重要なのは、最後の「「月経を促進する効力」があったことだと考えています。ミノア文明では「生命の樹」の一つとして表象され、ギリシャ神話では「出産の女神・エイレイテュイア」は、キュレネから近いギリシャ世界・クレタ島の女神とされています。そして、ハート柄のドレスで描かれています。つまり、ミノア文明から古代ギリシャ時代に、「月経を促進する効力」は難産の特効薬、産後の子宮洗浄、産後の肥立ち後の月経回復などに用いられ、その表象は「多産」、「子孫繁栄」を意味していました。

 

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(80)出産の女神 エイレイテュイア(ハート柄の人物);アッティカ黒像式三脚レイプトロン

  古代ギリシャ、アルカイック時代(BC7~6世紀);ルーブル博物館

  Louvre.fr/jp/oeuvre-notices

 

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(81)紋章ルターの薔薇:教会道具箱

 

一方、BC96年ギリシャ系エジプト・プトレマイオス朝Apionが、ローマ帝国にキュレネの土地を譲渡した時より、出産医療技術の向上もあったローマ時代には避妊、中絶に用いられることが多くなり、「ハート形表象」の意味も「セクシャル」なものに変わります。東ローマ帝国ビザンツ帝国)では、「ハート形表象」が売春宿の目印に用いられるようになります。これよりヨーロッパ世界で「ハート形表象」は、キリスト教宗教改革者・ルターが紋章に使用するまで(ルター宗教改革・1527年)、北ヨーロッパフランドル地方を除き、あまり使われなくなります。ルターの紋章はギリシャ系エジプト・コプト教会が「ハート形表象」を用いた事、そして、コプト教会ユダヤ人の多く住むキュレネと深いつながりを持ち、ローマ帝国の支配がキュレネに及ぶとき、ユダヤ人の反乱が起こったことを思い起こさせます。

 フランドル地方は「ハート形表象」を使い続け、ハート形のジュエリ―は子から母への贈り物として伝統にになりました。「私を生んでくれて有難う。」

 

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(82)PAUL(神楽坂),パルミエ(フランドル地方の伝統菓子)

「パルミエ」を食べるのなら「PAUL神楽坂」をお薦めします。写真(82)の様に一層一層が分厚く作られ、固く焼しめられています。よく言われる「源氏パイ」とは明らかに違う、フランドル地方・パルミエの食感がします。「PAUL神楽坂」以外では、日本の若者に合わせたのでしょうか、層が薄く、柔らかい「パイ」になっています。ハードなパンも若干柔らかい感じがします。だからいつも老体にはきつい神楽坂を頑張って登るのです。

 

 

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