形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

ハート形の表象が語ること(6)

 

表象表現 ハート形

コーカサス(Caucasasu)とミノア文明(Minoan Civilization)を繋ぐもの(4)

Sesklo文化ーDanubian文化ーCucuteni-Trypilian文化

 

 ミノア文明(Minoan Civilization)のハート形表象はコーカサス地方と黒海東北岸にもたらされ、サルマタイなどのイラン系騎馬民族の民族的な表象になりました。そして、ハート形表象は「ガーネット象嵌」と技術的に結びつき、フランドル地方に現れます。(もっとも、遠く離れた二つの時代が考えられるのですが。)その経路を証明する試みは、黒海大洪水(BC5,600年頃)によって、エーゲ海(地中海)と淡水湖だった黒海が結ばれたことに始まります。BC7,000年頃に地中海沿岸のバルカン半島に入植した数々の部族は、Sesklo文化、Dimini文化などを発展させつつ北上していきます。内陸部ではStarcevo文化からVinca文化などに発展します。一方エーゲ海と繋がった黒海にはドナウ川河口から北の海岸線にDanubian文化が起こり、Hamangia文化 Karanovo文化,Cernavoda文化と発展しながら北上を続けます。そしてCucuteni-Trypilian文化に集約していきます。

この間の文化を詳細に見ていけば、エーゲ海のSpondylus貝(伊勢カキ)が装身具や、平衡の王女像に加工され、黒海に持ち込まれる様子や、この地における彩文土器の始まりを知ることが出来ます。あまりにも寄り道をすると、ミノア文明(Minoan Civilization)のハート形表象に行きつかなくなりますので、代表的な「形而下の石」を眺めながら、北上したこれらの(ズールーの哲学・広くバンツゥー系民族)の文化が、南下してキクラデス文明に繋がる道に「形而下の石」を並べることにします。

 とはいっても、これ以後始まる人類文化で、あらゆる分野の基礎となることが観察できる「Sesklo文化ーDanubian文化ーCucuteni-Trypilian文化」、「Starcevo文化ーVinca文化」はあまりにも大切です。いずれ「線文字A]の解読と併せて書いていきます。

 

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(113)梨型(平衡の王女の表象)大壺;西ウクライナ、クルトボロディンツィ

     後期ククテニ文化(BC3,500~BC3,000年)

                 古ヨーロッパの神々 マリア・ギンブタス

 

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(114)写真(113)梨型(平衡の王女の表象)大壺に描かれた表象の意味;和久譲治

 訂正;真ん中の「V」は平衡、表象は「雨と虹の平衡」

梨型大壺はキクラデス文明の「Frying pann]と同じ観念を表しています。つまりそこに見られる文様は「ズールー哲学ー平衡の王女」を解り易く表象しています。マジシ・クネーネ( Kunene,Mazisi.)氏よれば「破壊的な熱帯暴風雨のあとにくる新しい秩序の出現を意味する虹、という啓蒙的な象徴の中に、ー存在物の実在と作用、宇宙の基本的性質の相対性の立証ーこのことが最も顕著に、劇的に表現されている。」となります。これで写真(104)タッシリ・ナジュール(サハラ砂漠)の岩絵複製画(参照)が「破壊的な熱帯暴風雨」と「虹」、それぞれに「平衡の王女」の顕現が描かれているのが理解できます。

また「平衡の王女は、均衡を保ちながらも分離している、半身が森、半身が野原の形で現れる。」としているように、物質的な存在物の現象を通してのみ、相対的に精神性を理解します。これらの文化を理解するときに、「表象」がより役立つのは、こうした「物質的な存在物」を表象を説明すための文字の様に使っているからです。

写真(113)梨型大壺は、その形自体が「平衡の王女の表象」であり、大地と、雨と虹、犬は平衡の王女の顕現なのですが、ヤギらしき動物が描かれています。「バセンジー犬」は跳ねることもしていません。高く飛び跳ねることで雲や雨を呼ぶ、平衡の王女の顕現が跳ねていません。後期Cucuteni culture(BC3,500~BC3,000年)も終わりに近い梨型大壺なのだと理解します。東方からのSredny Stog文化と、それに続くYamna文化の影響が表れています。彼らの表象は、存在物が言葉の様に物質的なのです。文様の違いは、現実性の違いに現れます。ちなみにCucuteni-Trypillian cultureの栄えたトランシルヴァニアは、湿潤だった頃のサハラ砂漠と同じように、森林と平原が入り混じったところだったようです。すべての思考は現実性から始まります。

 

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(115)「バセンジー犬」中期ククテニ文化(BC4,000年紀)

   モルドバ、ヴァルヴァロフカ

   古ヨーロッパの神々 マリア・ギンブタス

 

 

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(116)仮面(平衡の王女)を付けた犬;ブルガリア中央部、ゴルニ・パサレル

  東バルカン文化(BC4,000年頃)

  古ヨーロッパの神々 マリア・ギンブタス

 

「平衡の王女の仮面」を付けた犬、飛び跳ねる「バセンジー犬」は平衡の王女の顕現ですが、テラコッタの犬が多く作られています。アフリカ原産の「バセンジー犬」は寒さにには、非常に弱いのです。寒冷期に向かい始めた黒海北西沿岸は彼らには厳しい気候であったと考えます。

 

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