形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝(12)       国立西洋美術館

エレトリアの工房まとめ

 

f:id:blogwakujewelry:20151212202309j:plain

(19)金製ネックレス;エレトリア(BC500年~BC475年)

 

f:id:blogwakujewelry:20151212202353j:plain

(19)金製ネックレス(拡大)

 

(12)金製イヤリングの表象が出揃ったところで、エレトリア工房からの展示品をまとめてみようと思います。幸い、BC500年~BC475年の作品もありますので、少しでも長い時間の経過を見ることが出来ます。(19)金製ネックレスの編年(BC500年~BC475年)は正しいと思いますが、展示品にその説明がなされていないのは残念です。このネックレスは、この間のアカイメネス朝ペルシャによる、エレトリアの破壊と占領がなければ決して作られることはなかった作品だからです。アカイメネス朝ペルシャ文化の「聖樹の実・どんぐり」はエレトリアで好んで使われる「多産と豊穣」の表象ではないはずです。逆にこのことを理解すれば、アカイメネス朝ペルシャ文化の一端を見ることが出来ます。中央下部には額に粒金細工で「Chevron(Cheveron仏古語)」され、「石刃由来の大地」表象としての雄牛がいます。その頭部には「二匹のライオン」が乗り、「生殖・多産」を表象しています。つまり、この二つの表象が組み合わされれば、以前に紹介した(20)雄牛・人面の神;シリア・エブラの宮殿より出土(BC1,700年頃)と同じ表象になります。神として人面に近くなっていますが、髭はライオンの鬣(たてがみ)に見えます。ミノア文明、ミケーネ文明の地中海文化圏同様に「大地」と「生殖」が大切な二つの表象であることを確認できます。そして「雄牛」は「大地」の、「ライオン」は「生殖」のシンボルであることも理解できるのです。

中央に繋がる連結部分には柘榴の六弁花があり、そこからはインド―ヨーロッパ語族(特にケルトとインド-イラン語族)の「聖樹」・オーク(樫)の実・ドングリがいっぱいです。(装飾文化史・表象文化史;どんぐり)参照。 イタリア半島においても、インド―ヨーロッパ語族の征服と「ドングリの装飾品」は相関関係を持っています。そしてもう一つの「実」が問題です。四弁花の下にあるこの果実は、このネックレスがアカイメネス朝ペルシャ文化に基づいて作られたならば、「ナツメヤシ」だと思います。四弁花のオリーブはまだギリシャのみで栽培され、女神アテナの「聖樹」であるし、月桂樹も後に「アポロンとダフネ」と結びつくなどこの地方も含めたギリシャ世界の「聖樹」に近い存在です。八弁花の「ナツメヤシの花」を四弁花として表現することは、メソポタミア文明、エジプト文明の頃から見られます。

 

f:id:blogwakujewelry:20151212202437j:plain

(20)雄牛・人面の神;シリア・エブラの宮殿より出土(BC1,700年頃)

アレッポ国立博物館蔵:ARCHEO・メソポタミア;Newton Press

 

f:id:blogwakujewelry:20151031235336j:plain

(12)金製イヤリング;エレトリア、エヴィア島、ギリシャ(BC475年~BC450年)

 

そして、(12)金製イヤリングや(13)金製指輪が作られた、BC475年~BC450年がやってきます。BC506年にエウボイア島・ハルキスがアテネとの戦いに敗北、ハルキスの貴族は追放され、この島はアテネの支配下に入っていました。(BC490年、アカイメネス朝ペルシャによるエレトリア破壊の原因でもある。同じ年のマラトンの戦い後にエレトリアは再建される。)しかしアテネはBC490年マラトンの戦いに勝利するも、BC480年にはアテネが破壊されるなどペルシャ戦争はまだまだ続きました。(ペルシャ戦争BC500年~BC449年)アテナを中心とするへレス同盟軍(ギリシャではなく、ポリス同盟)よってアカイメネス朝ペルシャが去り、アテネによる支配が完成されるまでのBC475年~BC450年エレトリア工房は本来彼らが信じる神々の金製品を作ります。そして、(12)金製イヤリングには「柘榴の花」の「生殖・多産表象」と「石刃由来豊饒の大地」さらには(13)金製指輪に見られるように「ゴルゴン」「貝の後光」など、北イタリアの文明、ミノア文明、ミケーネ文明の表象がふんだんに使われているのです。しかし、大地を守る「蛇」と、柘榴と繋がる「生殖表象」のライオンを併せ持つ「多産と豊穣・大地の女神」は男にしがみ付かれています。アテネによる支配が徐々に強まっているのでしょう。自由な表現の中に、忍び寄る支配をも織り込んでいます。ギリシャ神話の物語は、この後、文化的な支配を完成させるため征服者が作ったもので、BC475年~BC450年は神話のもとになる状況がまさに進行中だったはずです。よって、しがみ付く男は神をも含む「アテネによる支配」の表現だと思います。

この後に造られた「テテイスのギリシャ神話」は、アポロンとアルテミスがテテイスの子供であることに隠された意味があります。アポロンとアルテミスが被征服者の女神の血を引くことは、神の入れ替えを容易にしたはずです。「ゴルゴン」の破風レリーフがある「アルテミス神殿」は「ゴルゴン神殿」が姿を変えた証拠となります。アポロンの神託所となっている「デルフィのアポロン神殿」に残る円柱はイオニア式で「柘榴の女神」の影が見えます。Gorgoneion(ゴルゴネイオン)の変遷に見られるようにBC508年クレイステネスの改革と、ペルシャ戦争(BC500年~BC449年)はアテネ人のアイデンティティを高め、アテネのギリシャ神話は完成に向かったのでしょう。

ちなみに、ギリシャ神話で「テテイス」は、最後に海に逃げます。(エレトリアの交易地;エトルリア、キプロス、レバントなど)

そしてエレトリアと「花畑大鷲神社」の表象に共通項が多いのは、気になるところです。「羽子板、扇が導いたこと(12)]参照

 

f:id:blogwakujewelry:20151212202633j:plain

(13)金製指輪;エレトリア、エヴィア島、ギリシャ(BC475年~BC450年)

 

 ついでに、私の大好きな「ドングリ」の作品も見て下さい。

f:id:blogwakujewelry:20151212214825j:plain

(21)2015秋の新作コレクション、どんぐりピン;Petit Fiori(プティフィオリ)和久譲治

siver,琥珀、ダイヤモンド、グリーンガーネット

 

© 2019 JOJI WAKU Blog. All rights reserved.