形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

「雨による平衡と豊穣の女神」誕生

スタジオジブリ作品「もののけ姫」にでてくる「鹿神」に似ていませんか。同じ雨の女神です。写真(2)の女神が、「ヴィーナス小像」の影響を引き継ぎながら数種類の雨と、平衡の表象を刻まれて、南フランスで見つかりました。表象的にも最初期の「雨による平衡と豊穣の女神」だと考えます。写真(4)を見て分かるように「Gravettian 」の文化圏に「雨による平衡と豊穣の女神」の概念が広がり始めた頃に、「鹿神」が現れたようです。詳しく見ていきましょう。

 

(1)Rock curving 上部マグダレニアン期( Magdalenian) Frans ; THE LANGUAGE OF THE GODDESS

 

フランス南部で骨に彫られた写真(2)が、おそらく最初に現れた「雨による平衡と豊穣の女神」だと考えます。写真(3)の様に、Leroi Gourhan氏はGravettian & Magdalenianのシンボルを収集、分類しています。隕石衝突後の初期に現れた「雨」と「平衡」、「生殖」の表象を持った女神です。人間の「生殖表象」を「獲物が増える」と言う意味に使ったことも、写真(3)の文脈から考えられます。つまり、「雨によって天地のバランスが整い、植物が茂り、獲物となる動物が増える」願いを託した女神像です。

 

(2)雨による平衡と豊穣の女神、Magdalenian,Dordogne s.France ; THE LANGUAGE OF THE GODDESS

 

(3)Gravettian & Magdalenianのシンボル、Leroi Gourhan; PAINTED CAVES Andew Lawson

 

同じLeroi Gourhan氏が、複数の洞窟内に描かれたものの配置を平均化して図にしたのが写真(4)です。フランス南部の洞窟ではほとんどが「馬」でしたので(ラスコー、アルタミラなどは隕石衝突後以前の壁画です)、最初に帰ってきたのが「馬」だったと思われます。この図には色々な動物が描かれています。少し時がたって、「雨による平衡と豊穣の女神」の概念が中央ヨーロッパに拡がったころのものだと考えています。「雨」の表象に「手」を使用していることから、「Gravettian」の中心的な文化圏だと思います。「手」は雨、「矢印」は平衡、「▼」女神は初めての登場です。「雨による平衡の女神」が中心部に描かれ、良く穫れる動物が取り囲んでいます。その中、21、51に面白い姿の「雨による平衡と豊穣の女神」が現れています。それにより新しい「雨による平衡と豊穣の女神」の概念が醸成されたことが解ります。写真(5)と和久ノートにその過程が明確に示されています。

 

(4)Gravettian & Magdalenianのシンボル、Leroi Gourhan; PAINTED CAVES Andew Lawson

 

最初に現れた「Ⅱ」と「矢印」の両方の平衡概念を持つ形として、平衡の「V」が生まれます。その後は「V」を組み合わせた数々の「Sheveron」が作られます。中でも最もよく用いられたのは「X」、「十字」、そして「ギザギザ線」です。

 

和久ノート

「ギザギザ線」二本の組合せから「連なったひし形」(輝く雨)や「🔸」、「蛇」が「雨による平衡と豊穣の女神」を表象し始めます。この過程は写真(5)の遺物が、全てを描いてくれています。「連なったひし形」がさらに組み合わさって「市松模様」が生まれるであろうことも理解できます。「🔸」の頭を持つ「蛇」は「雨による平衡と豊穣の女神」を表象するため、表象化はさらに進み、「二本の足」と「斜線・雨」を伴った「人形」の「雨による平衡と豊穣の女神」が生まれます。この女神の特徴は「ギザギザ線(Cheveron)」の様なシルエットです。

 

(5)上部マグダレニアン期( Magdalenian) 鹿角の斧 Denmark;THE LANGUAGE OF THE GODDESS

写真(4)の21が「雨による平衡と豊穣の女神」であることはこうして理解できます。

そして写真(4)の51はこの女神に角が生えています。さらなる概念が誕生したことが解ります。「狩猟民に獲物の豊穣」をもたらす女神の姿です。この概念がさらに明確になり、動物に憑依して獲物を運ぶ女神が生れています。それは鹿、熊、魚などが岩絵や陶器絵、そしてアイヌの「熊送り」に見ることができます。

写真(1)の「雨粒」で描かれ、身体をジグザグさせた鹿が「鹿に憑依した雨による平衡と豊穣の女神」であることは明白です。

 

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