形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

BelantashのMagalitic holesにみる、ヴィーナス像から雨による平衡と豊穣の女神の誕生

 

大体の資料が集まりました。「雨による平衡と豊穣の女神」の、誕生理由と神性が推察できます。皆さんも考えてください。

 

(1)Magalitic holes,Belantash,Belgaria ; Wikipedia Commons

 

ブルガリア南東部の、「鳥葬」と「共同納骨墓(穴)」の複合施設(Belantash)に表された線彫の表象です。「バギナ」です。これまで見てきたアフリカ部族の「宇宙を表す天の王女の子宮」はMegalithic(巨石構造物)や洞窟の入口で表されて、線彫や壁画には現れていません。そして何よりアフリカ部族は「鳥葬」と「共同納骨墓(穴)」は築きません。彼らは「土壙墓」、「石棺墓」、「Dolmen」などに、遺体をそのまま葬ります。

ではこの「バギナ」は何を表すのかと考えた時、「共同納骨墓(穴)」は「雨による平衡と豊穣の女神」と「冥界の女神」が習合した「イシュタル」の領域に造られるはずです。よく見ると「丸い穴」と「線彫された穴」は太い溝で結ばれていることが分かります。「丸い穴」は「雨粒・雨」そして「太い溝で結ぶ」は「平衡」と考えられます。つまり、「雨による平衡と豊穣の女神」を表しているようです。そうすると「バギナ」は「豊穣」の意味になります。

この推察は正しいのかを考えた時、「雨による平衡と豊穣の女神」誕生の時、「バギナ」の表象が「洞窟壁画やレリーフ、線彫」に描かれていたことに気付きました。最初期の「雨による平衡と豊穣の女神」が動物の「骨」に彫られています。(写真12)初期の「雨・平衡、バギナ以外の表象」、「平衡・二本線」と一緒に「バギナ」が彫られています。「雨による平衡と豊穣の女神」は誕生の時から「バギナ」表象を持っていたのです。

最初期の「雨による平衡と豊穣の女神」の表象と、写真(10)からその意味は容易く考えられます。写真(10)のⅡ期とⅢ期で現れる表象ががらりと変化します。Ⅱ期は「バギナ」のみで具象的、Ⅲ期は概念の飛躍が見られます。表象の抽象化が始まっています。「バギナ表象」の意味も変化したようです。この変化が「雨による平衡と豊穣の女神」を誕生させたと考えられます。

しかしより正確な意味を知るため、「バギナ表象」の始まりを探ります。

アフリカの新人(ホモサピエンスサピエンス)は20万年前に誕生して、10万年前頃から陸伝いに西アジア方向に「出アフリカ」を果たします。その時アフリカに残ったのが「ネグロイド」で、後に「洞窟壁画」や「ヴィーナス小像」を携えてヨーロッパに進出して行きます。もちろん、西アジアから世界に開かれた道を辿った「ネグロイド」もいるはずです。今後ヨーロッパ以外で「洞窟壁画」や「ヴィーナス小像」が見つかることも考えられます。

「バギナ表象」は「ヴィーナス小像」とともに現れています。(写真2)同じ意味を持つと思われる「ヴィーナス小像」を考えてみましょう。

結論から書きます。「ヴィーナス小像」「安産多産のお守り」です。お産のときに近くに置いたり、手に握ったりしたものです。従って「バギナ表象」も、人間の「安産多産」を願って刻んだと考えられます。

写真(3)を見てください。サハラ砂漠が湿潤期(BC9,000~6,000年頃)だった頃、草原の岩に描かれた岩絵です。外から見られないような囲いの中で、おなかの大きな女性が横たわっています。そこには「鳥」のように見えるものが数個描かれています。この正体はアフリカで発達した「ヴィーナス小像」です。詳しい説明は「女神たちの表象(3)」をご覧ください。こうして北アフリカでは「ヴィーナス小像」は作られ続けています。サハラ草原の砂漠化が進むとこの部族はバルカン半島ドナウ川下流域に現れます。(参照)そうしてヴィーナス小像は「Cucuteni-trypillian culture」に引き継がれています。

写真(1)Magalitic holes(Belantash,Belgaria)は

 

(2)Vulva、Dordogne  S.France  BC30,000年頃: THE LANGUAGE OF THE GODDESS

 

(3)タッシリ・ナジュール、アルジェリアの岩絵・お産室;サハラ、砂漠の画廊、野町和義嘉写真集(参照・女神たちの表象・3)

アフリカ、湿潤期のサハラ草原に描かれた「岩絵」です。気温の違いもあり、アフリカでは「洞窟壁画」同様に「岩絵」の研究を進めるべきです。

 

(4)ヴィーナス像の出土地、\\洞窟壁画 ;文明の誕生 江坂輝彌、大貫良夫

 

 

(5)文明の誕生 ;江坂輝彌、大貫良夫

 

(6)Fig URE 1 The Gravettian; Download Scientific Diagram

 

(7)Venus of Zaraysk  22,000~16,000年前頃ヴィーナス小像東への拡散;Recent additions,changes and updates to Don’sMaps

 

Venus of Zaraysk

 

(8)オーライトで出来た ヴィレンドルのヴィーナス;Scientic Reports

 

このオーストリアで見付かった「ヴィレンドルのヴィーナス」は、分析の結果北イタリアの鉱物で出来ていることが解りました。「スノーマン」の見付かった、アルプス越えのルートも考えられます。部族の移動とともに「ヴィーナス小像」は持ち運ばれるので、「ネグロイド」の移動経路も分かります。

 

(9)和久加筆

 

ヨーロッパでは35,000年前頃から作られ始めた「ヴィーナス小像」の文化は、俗に「Gravettian culture」と呼ばれています。フランス南西部に伝播した後に、洞窟壁画を描く部族の中では、様々な「バギナ表象」に変化してレリーフや洞窟壁画に現れています。写真(10)・Ⅰ期、Ⅱ期の頃に当たります。「ヴィーナス小像」より「バギナ表象」の方がフランス南西部では多く描かれたように感じます。壁画を描く部族だからではないでしょうか。

この頃(BC20,000年頃)、新しい石刃を持った部族がアフリカからスペイン、ポルトガル、フランス南部にやって来ていて、両者の融合した新しい文化が栄えます。アルタミラやラスコーの洞窟壁画に代表されます。南仏の編年では「Solutrean culture」と呼ばれています。ここで注目するべきは、表象的に獲物の「動物」、安産多産の「ヴィーナス小像」、「バギナ表象」、雨の[手の表象]だけだと言うことです。

そして突然「Solutrean culture」は消滅します。(参照)

 

時が経ちフランス南部に再び現れた洞窟壁画を描く新人は、抽象化した表象を描き始めます。明らかにボトルネックを引き起こした惨事を乗り越えた新人は、概念的な「飛躍」を遂げていました。写真(10)Ⅲ期からの表象です。Ⅲ期、左2か所の表象を見れば、雨、獲物、生殖、平衡の表象です。「平衡表象」については、後日改めてまとめます。私たちが「神聖だ、縁起が良い」としている表象の大多数は、この表象の発展形だから、複雑で数が多いのです。最初期の「平衡表象」は「二本線」、写真(10)の38~41「鍋蓋型」と写真(12)の84「矢じり型」です。フランス南部の洞窟壁画には「二本線」と「矢じり型」、「雨」を加えた矢じり型の発展形(36~38)が多く見られます。

いずれにしても、まとまった概念は「雨により平衡がもたらされ獲物が増えて欲しい」と読み取れます。「平衡」とは「天地の調和のとれて良い状態」です。アメリカの先住民には「ほうじょう」をこの意味で持っている部族がいます。「生殖表象」との混乱だと考えます。

その「生殖表象」ですが、写真(10)を見れば、Ⅱ期には「妊婦と男根を持つ人形」で表されています。動物と一緒に現れるときは、明らかに「獲物が増えて欲しい」と解釈すべきでしょう。ところがLateⅣ期には「バギナ表象」と獲物だけになっています。

この表象を見て過去に調べて事を、思い出しました。「雨による平衡の女神が憑依した鹿」です。「女神が獲物を連れてきてくれる」という考え方です。(参照1), (参照2), 

(参照3)

そうすると[バギナ]は、[雨による平衡と豊穣の女神]を表す表象と考えられます。

この概念も南フランスで生まれていた可能性が高い、表象の組み合わせです。南フランスからユーラシア大陸を東に伝播して、コーカサスに強く現われて、シベリアを経由して北海道に達しています。「アイヌ文字」に表れている「平衡・Cheveron」の発達状況から、どの時期にこの概念が生まれたのか、推察できます。

このような状況を見れば、写真(13)の様々な「雨」、「平衡」の表象を持った「女神」の「バギナ」は複雑な概念を併せ持つことになります。「女神」であることを表し、「豊穣」を表し、「ヴィーナス小像」から「雨の女神」が想起されたとしたら、「安産多産」の意味合いも残ります。

いずれにしても「雨による平衡と豊穣の女神」そして「冥界の女神」を習合した「イシュタル」は「雨」「平衡」「バギナ」で表されます。

 

以上、写真(1)「Magalitic holes(Belantash,Belgaria)」は「冥界の女神」を習合した「イシュタル」の表象です。よってこのMagalitic holesは共同納骨墓だと考えます。

 

(10)Gravettian & Magdalenianのシンボル、Leroi Gourhan; PAINTED CAVES Andew Lawson

(11)和久ノート

 

(12)Gravettian & Magdalenianのシンボル、Leroi Gourhan; PAINTED CAVES Andew Lawson

 

中心に、50・雨,45・女神、84・平衡が描かれ、21と51に雨による平衡と豊穣の女神が描かれています。どうしてこの姿になったのかは、「平衡表象」の伝播と展開を見ていく必要があります。長くなるので次回にします。

 

 

(13)雨による平衡と豊穣の女神、Magdalenian,Dordogne s.France ; THE LANGUAGE OF THE GODDESS

 

PetroさんがXに投稿された広島県呉市、善正寺のMegalithicは、「二本線の平衡」、「丸の雨」、「バギナ(写真2)の豊穣」がすべて揃っていますね。共同納骨墓です。瀬戸内海に渡来した上記部族の証拠です。

貴重な投稿有難うございます。

 

 

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