形而下の文化史

表象文化史・ジュエリー文化史・装飾文化史

 

Magura CaveとVarna culture(1)

 

 

Magura Cave(マグラ洞窟)・岩絵は歴史を表象していた

 

(1)ブルガリア  Durankulak,Varna,Sofia,Magura Cave

 

(2)「Starcevo culture」(参照)

 

 

黒海大洪水が収まったBC4,550年の頃、ブルガリアの北東部・ヴァルナの地に石垣に囲まれた集落が現れました。金製品や塩の交易で栄えたこの文化を「Varna culture」(参照)と呼びます。書きたいことが多すぎて困ります。そこであくまでも形而下の遺物に拘り、「Magura cave」の岩絵からこの文明を探ります。幸いにも「Magura cave」の岩絵はそのすべてがKiril Kirilov氏によってカタログ化されています。感謝に堪えません。「Varna culture」の全体像はWikipediaで描いてください。

先ずは「Varna culture」 が現れたブルガリアの先文化である「Starcevo culture」(参照)

の女神を見ておきましょう。「Starcevo culture」の本質が理解できます。

 

(3)「Magura cave」の岩絵;The complete catalog of all Magura cave paintings-creation,use and perspectivew.

 

(4)和久ノート

 

右の方から「上部マグダレニアン( Superieur Magdale'nienne) 文化」期の表象(参照)

が見られます。南フランスの頃には獲物となる動物が繫殖して豊猟となる事の意味が強く、妊娠を表すメス・女の表象が単独で使われることが良く見られました。「Starcevo culture」では多産の意味合いも強くなったのでしょう、男女の性交の岩絵も見られます。そして男女が一つになったこの形が豊猟、多産、豊穣の表象になったと考えられます。

真ん中の女神は「Cardium-Pottery culture」(参照)のイタリアより西側で生まれた二枚貝(ホタテ貝)の「雨による平衡の女神」です。この地中海海洋民の表象は黒海大洪水の後、ドナウ川河口域に広がります。隕石の「火」と「雨」による平衡(バランス)を表して、手を上下に(お釈迦様が借用したように)「天の火」ー「地の雨」を指しています。「Magura cave」の岩絵には「お釈迦様ポーズ」は全く現れません。「ズールーの概念・天の王女の宇宙を表象する子宮」のポーズになっています。両者の表象の違いがはっきりと現れています。「Starcevo culture」も、ドナウ川河口域の「Karanobo culture」や「Hamanjia culture」も、「ズールーの概念表象」が見られ北アフリカからの部族と考えますが、それぞれの表象に差異が認められます。北アフリカの広い地域から移動してきたことを伺わせます。時期的にはサハラ草原の砂漠化が原因だと考えています。

腰のリボンは二枚貝の耳を4枚組み合わせることで、「平衡」を表す「Cheveron十」にしたものです。本当に4枚組み合わせると「マルチーズクロス」になります。

腕を上げて「王女の子宮」にすれば、「現生の王女の子宮という宇宙」のなかで「雨による平衡の女神」が豊穣をもたらすとの意味でしょうか。あくまで相似的に重なる「王女の子宮」が基本原理になります。ざっと数えたところ、「Magura cave」の岩絵・1031(雨の表象の平行線に一本一本番号をつけているなど実際には250位だと思います。)中51は「天の王女の宇宙を表象する子宮のポーズ」でした。

 

(5)「Magura cave」の岩絵・ズールーの概念・天の王女の子宮表象を持つ岩絵;和久ノート

 

また概念的には上部マグダレニアン概念の雨の女神の表象に分けられる写真(6)があります。

 

(6)「Magura cave」の岩絵・上部マグダレニアン概念の雨の女神の表象;和久ノート

 

平衡の表象もズールーの概念的なものと上部マグダレニアンのcheveron・平衡表象に分けられます。二つの文化がこの地で出会ったことは確かです。地中海海洋民の女神はズールーの概念とすでに融合した形で描かれていますが、これを北アフリカの文化と分けて考えると、三つの文化・三人の女神がこの洞窟には現れていることになります。

上部マグダレニアンのcheveron・豊穣と平衡の雨の女神、

地中海海洋民の二枚貝雨の女神、

ズールーの概念・宇宙を表す天の王女の三人です。

 

(7)「Magura cave」の岩絵・北アフリカの平衡の表象;和久ノート

 

(8)「Magura cave」の岩絵・上部マグダレニアンのcheveron・平衡表象;和久ノート

 

ただ私には上部マグダレニアンの表象に違和感を感じています。ドニエステル川(Doniesuteru river)からコーカサス平野(Caucasus Plain)の間の文化圏に現れた上部マグダレニアンの表象は幾何学的で端正なcheveron表象でした。これをヨーロッパからの本流とすれば、違和感があるのです。ギザギザの平衡・cheveronを見ても生命感にあふれているのです。幾何学的に収まっていません。北アフリカの大きなストロークを感じさせます。雨の女神の表象と認められるものも、北アフリカの部族の感性が入っています。上部マグダレニアンの表象を取り入れて、北アフリカの部族が描いたものに感じます。或いは融合した人数のせいかもしれません。観念的には別々の表象ですが、感性的には同じです。「Starcevo culture」も研究が進むとこの辺りがより解明されることだと思います。

そしてさらに、黒海大洪水のあと四人目の女神が誕生します。

 

 

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