黒海大洪水 - 形而下の文化史

「黒海大洪水」はBC6,500年頃に起こったと考えられています。（参照）

写真（2）、（3）を見れば、洪水から逃げ出した部族の流れがよく分かります。両方向とも大きな文化は作れず、集落が散在するのみです。また洪水前にドニエストル川まで進出していたズールーの概念を持つ北アフリカの部族（参照）は、洪水期の混乱で進出し、北ルーマニア、モルドバ、西ウクライナにまたがる「Cucuteni-Trypillia culture（中央集権機構はなくても文明と呼ぶに値する）」を完成しています。Linear Pottery の部族はここには戻れていません。

ウクライナ沖やアゾフ海から逃げ出した部族の痕跡は、Dnieper-Donets cultureの集落やLinear Pottery の流れなどで推測することが出来ます。遺物の残る土器絵の表象は多くのことを物語っています。Linear Pottery は移動した方向が西ですから、写真(7)のようなおおらかな曲線、すなわちアフリカ部族の表象が含まれています。今回は「上部マグダレニアン(Superieur Magdale'nienne) 文化」の伝播を示す「雨」、「sheveron/平衡」の表象に限り調べてみました。非常に興味深いことが解りました。

ハンガリーの　ko"ro"s-Cris cultureの土器からLinear Pottery そしてDnieper-Donets cultureの土器表象は同系でありながら、「上部マグダレニアン(Superieur Magdale'nienne) 文化」の伝播段階が違っています。

(1)現在の黒海(明るい青)とライアンとピットマンの説による紀元前5600年の黒海 Wikipedia

(2)Linear Pottery Sites 　and　 culture;　Kristian Kristiansen Download Scientific Diagram

(3)Dnieper-Donets culture（BC5,000~BC4,500年頃）; wikipedia

(4)Linear Pottery（BC5,500~4,500年頃） ; wikipedia

写真（4）、（5）のLinear Potteryはハンガリー「ko"ro"s-Cris culture」の初期の土器と同じ様な表象が描かれています。直線的な「Cheveron・平衡」をシンプルに大きく描きます。それに組み合わせるのは、「雨」を表す点（円、単線）や斜線です。この「雨」の表象が一番古く伝播しています。「雨」と同じ様に古く、アフリカ部族の土器やそこから伝播した日本の縄文土器によく描かれる曲線の「雲」や「水」がほとんど描かれないのが Dnieper-Donets cultureの土器です。Linear Potteryも故地では同じであったと推察します。

「ko"ro"s-Cris culture」とLinear Pottery、Dnieper-Donets cultureの土器の大きな相違点は「ko"ro"s-Cris culture」は人形（平衡と豊穣の雨の女神）を最初は小石に彫り、後には土器で立体表現をします。Linear Pottery、 Dnieper-Donets cultureの土器に人形は現れません。土器だけでなく平衡と豊穣の雨の女神は「雨」と「Cheveron・平衡」で表象して、具象的表現はしません。この点から見ても黒海北岸からコーカサスの部族は同じ様な文化圏を、大洪水前に作っていたと考えます。エジプト・ナカダ文化やサルデーニャ島、北イタリアでもコーカサスの部族はイシュタルを「雨」と「Cheveron・平衡」で表します。具象的になるのはアフリカ部族の人形と融合したときだけです。

まとめると、Linear Potteryの基本形では直線的な「Cheveron・平衡」をシンプルに大きく描いた土器。さらに東のDnieper-Donets cultureの土器では「雨」を表す点（円、単線）や斜線が中心で「Cheveron・平衡」が加わります。　

土器の形は写真(8)のような「pointed bottom」です。この形は水に浮きます。このことから両地域とも基本的に湖沼地帯での漁業が盛んでそれに狩猟が加わった狩猟採集民であっただろうと考えられています。

そうでしょうか？

「上部マグダレニアン(Superieur Magdale'nienne) 文化」の伝播は西からですがコーカサス南麓にはBC7,000年頃に初期農業や動物の家畜化が西アジアから伝わっています。当然、Dnieper-Donets culture故地アゾフ海にも伝播していたはずです。大洪水前には両地域は平地つながりであったはずです。狩猟採集から初期農業や動物の家畜化の文化が淡水の黒海北岸にはあったのではないでしょうか。さらなる考察が必要です。

次回はDnieper-Donets cultureの墓地から見つかった「銅の装飾品」を考えます。高い文化を感じさせます。